オトコラム

第6号 人が音を聞くメカニズム(3)
    ~最も小さな骨~

前号では、あなたの鼓膜はいつも目にも止まらぬ速さで揺れ動いていると書きました。
鼓膜とは、もちろん皆さんご存知の通り、耳の穴の奥の方にある薄~い膜です。
この鼓膜の揺れは、どうやって、それより先の器官へ伝えられているのでしょう?
そこで今回は、鼓膜のすぐ裏側にある、「耳小骨(じしょうこつ)」という小さな骨についてお話ししたいと思います。
鼓膜の裏側には、「つち骨」という小さな骨がくっついています。
そして、その「つち骨」の先には、「きぬた骨」という、これまた小さな小さな
骨がくっついていて、さらに、さらに、「きぬた骨」の先には、輪っかのように真ん中に穴が空いた、最も小さい「あぶみ骨」という骨がくっついます。
この「つち骨」「きぬた骨」「あぶみ骨」は、まとめて「耳小骨」と呼ばれています。
この耳小骨、実は人間の体内で最も小さい骨なんです。
知らなかったでしょう? 
最も小さな骨が、耳の鼓膜の裏側にあるなんて。
どこかでウンチク垂れる時に、持って来いの話でしょう?
忘年会あたりで、ぜひ使ってください。
これぞ「オト・コラム効果」です。
ところで、この耳小骨、だてに3つもあるわけじゃありませんし、単に無意味にくっついているわけではないんです。
「つち骨」と「きぬた骨」、そして、「きぬた骨」と「あぶみ骨」の間には関節があって、それぞれがまるで扉の蝶番のような動きをしています。
そして、耳小骨の中の最後の「あぶみ骨」が「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれる内耳の器官にくっついています。
蝸牛というのは、ほら、耳の解剖図などで見たことがあるでしょう?
チューブ状の物が渦を巻いて、まるでカタツムリのような格好をした器官です。
蝸牛の中(チューブの中)はリンパ液で満たされていて、その液体の中には、音を感じて、それを脳に伝えるためのセンサーである細胞が並んでいます。
この蝸牛、おそらくは、人間が音を感じるために最も重要な器官であると言えるでしょう。
(蝸牛の機能と役割については、いずれ、このコラムで詳しくお話したいと思います)
蝸牛の渦巻きの外側には、中のリンパ液に接することができる窓が付いていて、「あぶみ骨」は、この窓に繋がっています。
空気の中を伝わってきた小さな揺れは、鼓膜を揺らし、「つち骨」と「きぬた骨」を介して「あぶみ骨」に伝わります。
そして「あぶみ骨」は、伝わってきた揺れに応じて、窓から蝸牛を押したり、引いたりして、中のリンパ液を揺らします。
このリンパ液の揺れを、蝸牛の中のセンサーが読み取って、人間は音を感じるのです。
そう、ほんの小さな空気の揺れだった“音”は、ここで液体の中を伝わる揺れ(波)に代わるのです。
ですが、ここでちょっと考えてみましょう。
元々は空気の中を伝わってきた小さな小さな揺れなんです。
これを、そのまま液体の中を伝わるような揺れにするのには、かなりの力が必要だと思いませんか?
例えば、屋外のプールに満たされた水を思い浮かべてみてください。
この水を揺らすのって、どれだけの力が必要でしょう?
かなりの力が必要だということは、直感的に分かりますよね?
音の場合、このために用意された力というのは、肌ではほとんど感じることが出来ないような、ごくわずかな空気の揺れですよ。
この程度の力で、蝸牛に満たされたリンパ液を揺り動かすことが出来るのでしょうか?


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