オトコラム

【江戸時代の長屋は対話民主主義 対話のスペクトラム】
想いやり話し方講座(想いやりトークチャンネル)

↑ぜひ観てください!↑
役に立つ!と思ったら、チャンネル登録、よろしくお願いします!

第7号 人が音を聞くメカニズム(4)
    ~耳小骨の実力~

前号では、「つち骨」「きぬた骨」「あぶみ骨」から成る、人間の体内で最も小さい骨“耳小骨”について、お話しました。
今回もこの耳小骨について、さらに詳しく、ウンチクも交えながらお話したいと思います。
まず、耳小骨のルーツってご存知でしょうか?
あくまでも学説ではありますが、この耳小骨、
太古の昔、人類がまだ魚類だった時代は顎骨(あごの骨)だったそうです。
魚類が陸に上がり、ヒトへと進化して行く過程で・・・恐らくは生きていくために聴覚を発達させる必要があったのでしょう・・・あごの骨が音を聴くための骨に転用されていったのです。
詳しくは、岩波講座、言語の科学2「音声」などに書かれていますので、さらに興味のある方は、こちらで勉強して・・・筆者にも教えてくださいね。

また、「つち骨」「きぬた骨」「あぶみ骨」って、なんか凄く変な名前だと思いませんか?
背中の骨は「背骨」、お尻の骨は「尾てい骨」っていう風に、普通は分かりやすい名前がついているんですけどねぇ。
この名前の由来は,実は全てその形状から来ているんです。
つち → 槌 (兎が月のうえで持っているやつです)
きぬた→ 砧皮などをなめしたりするときのたたき台.多分,槌と砧を組にして考えたんだと思います。
あぶみ→ 鐙 これは形,そのままですね。
体内で最も小さくて、一般人が肉眼で見ることはまず無い骨なのに、わざわざ、その形状や役割から名前を付けているなんて、なんか面白いですよね。
最初に、この骨の存在を発見して、その形や動きに感動した人が名づけたのが、そのまま残ったんでしょうか?

ところで、前号にも書きましたが、耳小骨の役割は、鼓膜のわずかな揺れを蝸牛の中に伝えることです。
ところが蝸牛というのは、中が液体で満たされていて、ちょっとやそっとの力では「空気の揺れ→鼓膜の揺れ」が伝わらないんです。
さらに困ったことに、蝸牛というのは、とてもデリケートな器官でもあるので、強い揺れ(大きな音)が入ってくると、今度は簡単に壊れてしまいます。

さあ、困りました!

この難題を解決しているのが耳小骨なんです。
鼓膜のわずかな揺れを強く正確に蝸牛に伝え、さらに大きな揺れは入れずに、弱くてデリケートな蝸牛を守る機能も併せ持つ、神様が創った最高傑作!

と言ったら言い過ぎかもしれませんが、これは、なかなかに良くできた精密機械なんです。
これらの機能のキーワードは、“てこ”と“面積の比”。
そして中耳筋(耳小骨筋)と呼ばれる、これまた小さな小さな筋肉なんです。

前号で、「つち骨」と「きぬた骨」、「きぬた骨」と「あぶみ骨」の間には関節があって、それぞれがまるで扉の蝶番のような動きをしていると書きました。
ここで、実際は「きぬた骨」は「つち骨」よりも短いので、ここの構造がちょうど“てこ”の役割を果たすのです。
さらに、鼓膜の面積は、あぶみ骨がくっついている蝸牛の外側の窓の面積よりも10倍以上大きいということが、とても強く作用します。

想像してみましょう。
鼓膜という大きな膜があります。
鼓膜の裏には、「つち骨」と「きぬた骨」が蝶番のような構造でくっついていて、長さは「きぬた骨」の方が短いわけです。
鼓膜が押されると、この構造が“てこ”のような働きをして力を強め、「あぶみ骨」に伝わります。

「あぶみ骨」は、小さな小さな、鼓膜の1/10以下の面積の窓に繋がっています。
ここでは、尖がった鉛筆を想像してみましょう。
先が尖がった鉛筆の芯の先を手の平に充てて、上から少しだけ押してみると・・・わずかな力なのに、すごく痛いでしょう?
大きな面積(鉛筆の底)に加わった力が、小さな面積(尖がった鉛筆の芯)に集中することによって、わずかな力が強いエネルギーとして伝わっているからです。
同じ事が、あなたの耳の中でも起きているのです。
鼓膜に加わった力が、小さな「あぶみ骨」に集中して強いエネルギーとなっているのです。

そして、耳小骨同士は、ただ、くっついているわけではありません。
お互いをくっつけるための、小さな筋肉があるんです。
この筋肉は、大きな音が入ってくると自動的に収縮して(縮まって)、今度は一転して耳小骨の動きを抑えます。
これは「中耳反射」と呼ばれる現象で、これがあるから、大きな音が入って来た時は、デリケートな蝸牛を守ることが出来るのです。

鼓膜からあぶみ骨へ、そしてとても面積が小さい蝸牛の窓へと・・・
肌ではほとんど感じることが出来ないような、ごくわずかな空気の揺れは、耳小骨によって増強されて、蝸牛の中のリンパ液を、今日も元気良く揺らし続けているのです。

-----------------------------------------
今号の内容には、前号のオト・コラムにお寄せいただいた以下の方々からのコメントを、ご本人の了解を得た上で、一部流用させて頂きました。
鈴木陽一様(東北大学 教授,日本音響学会会長)
入野俊夫様(和歌山大学 教授)
ありがとうございました。
-----------------------------------------

(2007.01.15)


△ページTOP