オトコラム

第42号 ベテラン工員さんの耳は精密分析を超える(2)

前回は、高い技術力を誇る日本のモノ作りを支えて来たベテラン工員さん達は、“音の違い”に対して、とてもデリケートで精密な感覚を持っているというお話をしました。

例えば、工場の中の工作機械が、物凄いスピードで回転しながら、金属の部品を削っている現場。
切削加工と呼ばれる、このような現場では、部品を削るための“歯”が最も重要なパーツです。

部品が精密であればあるほど、削るための“歯”も精密にできていなければなりません。

ところが、この歯は、ほとんどの場合は消耗品です。
ある程度の作業を行ったら交換せねばなりません。
交換時期を過ぎた歯で削ってしまったら、おかしな部品が出来てしまいます。

ベテランの工員さんは、この歯の交換時期を、“歯が部品を削る音”で判断できると聞きます。

古くなってきた歯と新しい歯では、削ったときの音が違うそうです。

(音の専門家であるはずの私ですが、実際に聞き比べさせて頂いて、その違いは全く分かりませんでした・・・)

プレス加工という工程では、大きな板状の素材を、作ろうとする部品の“型”の上に置いて、上から強力な力でプレスします。

板状の素材は、型の通りの形になって機械から出てきます。
この工程では、僅かな“ずれ”などで部品の寸法が狂う場合があります。

寸法が狂った部品が、そのままベルトコンベアーに乗って次の工程へ流れて行ってしまっては大変です!
次々と不良品が出来上がってしまいます。

ベテラン工員さん達は、素材をプレスした瞬間の“音”で、不良部品の発生を見つけることが出来る場合が多いそうです。

出来上がった部品を、軽く叩いたり、ちょっと曲げてみたりして、その部品の出来を確認できる工員さんも数多くいます。
私が以前にお目にかかった工員さんは、機械から出てきた薄い板状の金属の部品の1枚1枚を両手に持って“グワン!”と反らせていました。

子供の頃に学校で、下敷きをグワングワン曲げて遊んだことがありませんでしたか?
あんな感じです。

そして、あの“グワン”という音の違いで、不良品を見分けていました。

シート状の金属の部品の中には、見た目は全く変わらないのですが、金属の成分が均一になっていない物が、時々、混ざっているそうです。

それを分析装置で見つけようとすると、1枚1枚をX線で撮影し、その画像を解析して・・・
大変なコストがかかるそうです。

しかし、そういった不良部品で製品を作ってしまうと、最悪の場合には、お客さんが使っている時に割れてしまったりします。

結果として、その工員さんは、シートを反らせた時の「グワン!」という音の違いで不良品を見分ける技を体得し、高価で時間のかかる分析装置よりも遥かに高い精度で不良品を見分けているのでした。

(2012.5.10)


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