特別企画 対談

vol.1 「マーケティング・商品企画と聴覚心理」

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五感=”心地” 

坂本 それが今言われている閉塞感に繋がってしまっているのですか?この閉塞感を突破するのに、何か良い方法はありますか?方法というか、ヒントでも。

笠原 方法、ヒントか!

坂本 先生がずっと取り組まれている、商品開発や企画に、五感を取り込むというコンセプトに可能性はないですか?私は聴覚の専門家ですし、その辺聞きたいですね。

笠原 五感ね。

坂本 はい、五感というと、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。視覚についてはある程度やり尽くした感はあると思うのですが、五感に興味を持たれたのはなぜですか?

笠原 私は、五感=心地だと思うのね。

坂本 心地ですか。

笠原 そう心地。例えば、描き心地。触り心地。食べ心地は言わないか・・・

坂本 なるほど。心地良いの心地ですね。寝心地とか。

笠原 言い換えれば、「心地って価値だよ」って話があって。マーケティングや商品企画の世界では、よく、「価値とは?」という話になるけど、心地も、また次元の違う階に存在するものだと思う。

坂本 そうすると大きな枠では、心地も価値ということですか。

笠原 んん。価値と言うか、意味というか、時間を詰めることができるのかな。

坂本 時間を詰める・・・ですか?

笠原 そう。ただ、詰めるって、時短じゃないよ。「詰まらない」の逆ね。心地良いと、時間が詰まんなくないじゃない。

坂本 そうすると、心地良いって、目に見えないところで決まってしまうのではないですか?

笠原 そんなこともないよ。私は花をやっているけど、それは見心地だよね。

坂本 そうですね。絵画とかも見心地か。先生が開発されていた筆記具ではどんなことを?

笠原 筆記具は触り心地だよね。手で触るもの、道具も触り心地は重要になるわけ。持ったときのバランスなんかも含めてね。

坂本 そうですね。道具って触り心地が重要ですね。

笠原 包丁は良い例だよね。”触り心地”って、”使いやすさ”とは違うよね。料理をすることを考えてみると、包丁を使用するとき、ガタガタというよりはストって感じがいいよね。吸い付くみたいな。または、サァーみたいな。食材がすんなり切れるみたいな。

坂本 そうです。その、ガタガタとかストってどちらかというと聴覚心理です。包丁メーカーでは、私みたいな聴覚心理の専門家がお手伝いすることないと思われてしまうのですが、そんなことないですね。

笠原 そうだよー!

坂本 切れないのは困るけど、切れたと思い込ませる。切れ心地が良いと思わせるのが心地良さですよね。切る事が仕事の、料理人が使う包丁で”切れた”と思い込ませるのは意味ないですが、家庭で毎日料理する人だったら、切れないのは困りますが、「やっているうちに楽しくなっちゃた」みたいなのは重要ですよね。

笠原 そうそう、新しい商品とかサービスって、日常感覚の、時の過ごし方。時間の細部に解があるんじゃないかな。

坂本 包丁の切れ味が変わらないなら、包丁とまな板もセットで考えればいい。

笠原 そうだね。その考えは良いよね。

坂本 包丁とまな板のセットでいい音がする商品を開発すれば差別化になりますね。考え方だけど、包丁のマーケティングですら、まだまだ出来ていないとも言えますね。

笠原 包丁なんか生活に欠かせないものだからね。生活を一瞬一瞬で豊かにしていく考え方が突破口を開くヒントだよね。

嗅覚と聴覚 

坂本 次は、臭覚についてお話したいのですが、五感刺激のブランド戦略(著者:マーチン・リンストローム)に書かれていたのですが、何となくの、その時の人の気分は嗅覚、匂いの影響が大きいそうです。

笠原 匂いね。

坂本 あれは、著者が欧米の人だからではないのかな?って思うんですが・・・

笠原 なんで欧米の人だから?

坂本 前に、臭覚の専門家からお話しを聞いたのですが、ナポレオンが世界制覇のために各地を転戦していて、久しぶりに帰る時に、1週間お風呂に入らないで待っててくれと、奥さんに手紙を出したという話があるって聞いて。

笠原 私も聞いたことあるよ

坂本 香水なんかも欧米の方が、歴史があるのですかね。匂いの文化と言うか。

笠原 私も臭覚の専門家から聞いたけど、匂いに関しては、日本はオリジナリティが無いんだっていうんだよね。全て輸入品だっていうわけ。考え方も含めて。。。欧米の人は、匂い。日本の人の考えは、香りだよね。

笠原 欧米人は、匂いに様々な機能を持たせている。コミュニケーションも含めて。どちらかと言うと、日本人は無臭の文化だね。特に今は。

坂本 そういう意味では、日本人は匂いより、音。聴覚との結びつきの方が強いように感じますね。欧米の人に、ししおどし、や、金魚売り、豆腐屋のラッパなど、聞かせても分からないですもんね。

笠原 それは、分からないよね。

坂本 夏は風鈴で音を楽しんだり。

笠原 自然が豊かということか。あと、日常新しいことをしなくても楽しめるという、気質もあるのかな?無臭で思い出したんだけど、日本人は無音好きじゃないの?

商品の評価軸とは? 

坂本 家電メーカーのエンジニアの方とお話したとき、掃除機の話になったことがあります。設計思想として、物凄い吸引力と静音設計。つまり無音に近いものを追い求めていると思うんですよね。

笠原 物凄い吸引力と静音設計か・・・確かに。

坂本 だから、先ほどの包丁の話ではないですが、楽しむと言うか、豊かに掃除をするという設計にはなってないですね。

笠原 そうだよね。ダイソンなんて掃除している気になるよね・・・私も持っているけど、あの、グゥイイイっとか、グゥイグィって感じが良いよ。

坂本 そうですよね。あの音は”吸っている感”、物凄いありますよね。ただ、うるさいですけど。日本製は静音設計だから、吸っている感の音はどうしてもないですよね。

笠原 音は?音は?って考えると。音って邪魔なんだっていう風になるんだよ。特に日本のメーカーの場合は。

坂本 音は、確かに騒音と捉えられるのか、心地良いものと捉えられるのかまさに、商品設計に、聴覚心理的な問題が必要になってくるわけです。

笠原 企業の商品企画って色々あって。私がやってきた、価値構成理論なんかは、価値構成表で、その辺を明らかにしようとしているんだけど。
(価値構成表・価値構成理論とは笠原先生が考えられた商品の価値が何なのかを表すのに有効なツールである)
価値構成表についてはこちら

坂本 価値構成表。私も利用しています。劣化雑音音声を何に使うかということに利用して、その価値からゲームに利用できるんではないか?ってところに行き着いて。任天堂からキキトリック出ちゃいましたもんね(笑)まぁ、今日はゲームの話じゃないので・・・

笠原 (笑)

笠原 日本のメーカーは、やたら細かいところで出来ることだけ直ぐにやる。言われたことを直ぐにやる。技術に聞いて出来るなら、直ぐやる。それで差別化していくわけだ。つまりミクロな差別化の連続をしていくわけ。

坂本 なるほど。

笠原 結局、エンジニアをちょっとした改良のために使ってしまい、構造的に大きなことのために動けないのが現状だね。

坂本 先ほどの家電のエンジニアに聞くと、「もう難しい」っていうんです。静音設計が。ある程度行き着くところまで行き着いている。でも、ライバル会社が静音商品をPRすると会社はその商品よりも1[dB(デシベル)]でも良いから音を小さくしようとするわけです。

笠原 1[dB]でも?

坂本 聴覚の専門家から言うと1[dB]の違いって、ほとんど聞き分けられないです。言うならば無意味に近いわけです。それでも優秀なエンジニアを、カタログスペックに載せるためとは言いませんが、他社よりも1[dB]、2[dB]を下げるためにその作業にあててしまうわけです。金額ベースにしたら、おそらく何千万円以上コストをかけて・・・誰も聞き分けられないわけですよ(笑)

笠原 本当にやらなければ、いけないことはやらないでやれること、出来ることからやっていく。超マイナーチェンジ思想だよね

坂本 でもどうして消音に拘るんですかね。だからと言って、掃除をすると気持良い音のする掃除機を作ろうとはならないんですよね。ご提案するけれども受け入れられない(笑)

笠原 それは、メーカーのせいではなく、一種、日本文化そのものなのかな?

坂本 日本文化そのもの?

笠原 最初に日本のマーケティングが保守的という話をしたよね。

笠原 ある商品の評価軸というものが一度決まると、その評価軸が、なかなか変わらない。保守的なんだね。それで、評価軸が社会化してしまうとその評価をメーカーは数値化するわけ分かりやすいからね。そうすると、軸だけで評価してしまうんだね。

坂本 つまり、静音という評価軸ができると 静音=[dB] という軸になってしまう

笠原 そうそう、エコが軸になるとエコがその商品の評価軸になる。必ずしも数値化出来ないのもあるけどね。一番の原因は、評価軸に多様性がないんだよ。