特別企画 対談

vol.2 「イノベーションと聴覚心理」

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大島 新しいことを始めるって、歴史的に見ても小さな企業が始めることが多いと思います。

坂本 欧米のイノベーティブな企業。アップルとかGoogleも最初は小さかったですね。大企業がイノベーティブなことをやっても、最初のアイデアは、実はベンチャーや中小企業からの持ち込みだったりするんですよね。

大島 それを大手が取り込む。

坂本 でも、日本の大企業って、”自前文化”だと思うんですね。

大島 そうですね。

坂本 最近、流行のスマートフォン(アンドロイド端末)を例にとればアンドロイド端末を設計できる人を探してくるとか、設計できる会社や個人とパートナーシップを組むとかいうよりは社員に勉強させて、それを出来るようにしなくてはいけない、教育させなければいけない、という意識が強いように感じます。

大島 オープン・イノベーションという言葉が流行ってから、自前主義は駄目だと言われているわけです。でも、その例を聞くと、あまり変わっていないように感じますね。高度成長期以降ですかね。アメリカやイギリスの企業に比べると日本は、小さな会社の話に耳を傾けない傾向にあるように思います。ただの、下請けとしてしか見てないのか。

坂本 そんな感じしますね。

大島 アメリカの企業は、とりあえず会ってくれる、ってよく聞きますね。日本の企業から、イノベーションが産まれなくなった原因の一つにそういう事もあるように感じます。

坂本 昔って、コンピューターもないですし、一つのものを開発するのに物凄い時間が掛かるわけです。今は、コンピューターはあるし、精密な物でなければ、新興国でも生産できます。外部の知見やアイデアを入れていかないと、製品開発では、欧米の企業にスピードで勝てないのに・・・

大島 やらない。

坂本 自前文化が強いから、やらないですね。

大島 やはり、ものづくりの企業文化でどっぷり浸かってきたからですかね。ものづくりでは、人間の経験・技術・ノウハウは他人には簡単に移らない。だから自前文化が良い。ただ、ITの場合はアイデア一つで真似されてしまいますね。

坂本 そうですね。事実、ITを使ったサービスって似たようなものも多いですね。

大島 アイデアが出来てしまうと、経験とかノウハウが関係なくなっちゃう。あまりにも、ものづくり文化にアジャストしてきたから、ITに向かなくなっちゃったのかもしれませんね。

坂本 ビジネス雑誌などで、大企業経営者のインタビューを読むとやっぱり、”人材育成”が重要と書かれています。

大島 育成するということは、間違いではないですね。力を持った人を見つけ、力を伸ばす環境を整えてあげることも重要です。そうしないと社内で育たない。

坂本 そうです。ただ、私が言いたいのは、それだけではなく外部の人の力も借りたらどうかということなんです。やはり、違う環境の人が近くにいると刺激を受けます。刺激を受けると成長すると思うんです。

大島 なるほど。

坂本 あとは、「外部の力=外注」ではないんですね。すぐに”下請けに出す”みたいな感じに思われてしまいますが、そうすると、技術は何も残らないです。つまり、人も成長しないですね。

大島 そうですね。下請けに出していると、社内の人材は育成されないですね。

坂本 あと、私は社員教育って、OJT教育訓練すれば良いと思っているところに、落とし穴があるように感じます。

*OJT On the Job Trainingの略称。「仕事中、仕事遂行を通して訓練をする」という意味を持ち、現在の企業で行われている職業指導手法の一つ。

大島 OJT文化は残っていると思いますが、日本の企業でも、OJTだけではなく、昔は育てようという文化はあったと思うんです。デジタル家電って、もともとは日本企業が歴史を作ってきたわけですし、イノベーティブな会社が多かったですね。バブル崩壊後は、家電はすっかり駄目になってしまった。

坂本 OJTは、間違いと言うつもりはないですが、マイナス面もあると思います。私はエンジニア出身なので、エンジニア目線で思うのは、教育訓練されると、技術の目利きが出来なくなってしまうのが怖いです。見たことのないものを判断できない、しないという感覚に入ってしまいますね。「教わってない事、前例がない事には触りたくない」って感じかな。他社が導入するのを見極めてから取り入れるのと、最初に取り入れるのでは、全然意味合いが違ってくるわけですよ。

日本のイノベーションは? 

大島 それは、昔からあったように感じますが、7割の人間が賛成したアイディアはダメだって、松下幸之助さんが言ってますよね。

坂本 7割以上賛成ですか?

大島 例えば、取締役会や新製品開発会議で、採決取って。逆に、7割の人が反対するようなアイディアの方がイノベーティブだというわけです。

坂本 そうかもしれませんね。

大島 担当者となると、会社の考えを遂行するためには、ある程度の教育は必要ですね。そのためには、OJTも必要だと思います。でも、「皆反対しているけど、やってみたら」みたいな寛大な心の上司は必要ですね。そうしないとイノベーティブなものは絶対に産まれないですね。

坂本 昔は、中央研究所方式というか大きな会社は中央研究所という研究所がありました。

大島 そう、昔は結構、好きなことさせてた。してたんだよね。

坂本 私の師匠(電電公社研究所、東大音声研他に所属した故齊藤收三教授)は、「研究所は動物園だから人間はいないよ」って言ってました。(笑)今は、研究所で製品開発してますからね。

大島 バブル崩壊の影響が大きいですね。すっかり余裕がなくなっちゃった。

坂本 研究者が市場調査してますから。全部の会社とは言いませんが。この研究をしたらどのくらい儲かりますってのを出さないと、研究させて貰えないみたいです。

大島 日本でもMOT(技術経営)の手法が導入されて、研究開発や製品開発の手法も変わってきています。例えばステージゲート法もその一つの手法ですね。しかし、こうしたものを生半可の状態で導入すると管理ばかりが増えて、成果ばっかりを求めることになる。

*ステージゲート法研究開発テーマや商品アイデア創出において、多数出されたアイデアを対象に、研究開発や事業化・商品化活動を複数の活動(ステージ)に分割し、次のステージに移行する前には評価を行う場(ゲート)を設け、そこでの評価をパスしたテーマのみを次のステージに進めるという方法。

坂本 そもそも、研究に成果を求めてはいけないんですよね。だって、誰もやった事がないことをするのが研究ですから。

大島 そうなんですよ。研究開発と製品開発は別物ですが、両方ともアイデアを発想する時点では、自由な発想が必要ですね。市場性評価とかの縛りがあまりにきつすぎると、現在の市場で受けている物しか見えなくなる。だから、日本の企業でiPodやiPhoneの発想が出てこなかった。

坂本 日本企業は余裕がないですね。

大島 多分、お金は内部留保があるので、資金的にはあると思います。

坂本 ただ、リスクを取るほどの余裕がなくなった。

大島 そうです。バブル崩壊後ここ20年ぐらいはそんな感じじゃないですか。だからイノベーティブな物が産まれていない。少ない。その間、悪しきアメリカのマネージメント手法を安易に取り入れて、管理が増え、発想も貧困になってしまった。

坂本 アメリカのいい所は導入しなさいと言うのは、良い面もありますが、急に、「国も企業もそっちの方向を向きましょう」と言われと・・・農耕民族に、いきなり狩猟民族になって狩りに出ていけ!と言うようなものですよね。

大島 農耕民族と狩猟民族というのは言い古された言い方ですが、結構、当たっていますね。

坂本 槍や弓の使い方を知らない人が、「鍬を置いて狩りに行け!」と言われたんです。対応できる人もいるけれども、大部分の人は対応できない。

大島 研究者の世界でも、ありましたか?

坂本 企業研究者は、今利益を求められるますね。先ほども話しましたが、研究というのは利益が出るか出ないか分からないから研究なんです。「これは研究ではないなぁ」と思われるような仕事が、研究所で数多く行われているのも事実のようです。

大島 「研究でない」と言うのは?

坂本 本来、ステージとしては、研究→開発→設計がありますよね。研究室というのは、研究ステージなわけです。それが、研究室で、開発、設計をやっている研究者がいるのです。

大島 なるほど。

坂本 実は、それで問題なのは、設計のプロの人も少なくなっているみたいなんです。皆が、中途半端になってしまってますよね。

大島 日本の産業って、すぐに”モノ”にならなくても研究していたんじゃないですかね。エレクトロニクスではなくて素材系なのでちょっと違うかもしれませんが、東レの炭素繊維は発明からボーイング787に採用されるまで50年かかったそうです。

坂本 素材系の企業はコツコツとやりますね。薬学系もそうじゃないですか。

大島 化学系の研究開発は時間がかかりますから、今でもそうなんでしょうね?

坂本 自分が詳しい分野ではありませんが、イノベーティブな物をつくるとなると、化学に精通しているだけでは、世界を相手にする場合は、太刀打ち出来ないかもしれませんね。

大島 そうですね。

坂本 一つの分野を突き詰めても、今は世界中、直ぐに誰か凄い人を探せます。沢山のライバルがいる状態です。勝つためには、違う知見も入れないと駄目。やはり柔軟性が必要だと思います。日本は組織を見ても分かりますが、柔軟性に欠けるように感じます。

大島 発想の自由度は下がっていますか?

坂本 うちなんか「私たちは、聴覚心理や音の会社です」って言うとありとあらゆる業種の会社で「関係ない」と思われてますね。この後ゆっくり説明しますが・・・

大島 産業全般を見ると自動車は頑張っている。家電はすっかりだめになってしまいましたが、電機でも日本はまだ素材や電子部品は競争力残している。

坂本 部品や素材ですね。

大島 ご存知だと思いますが、韓国は日本に対する貿易収支が赤字なんです。対日貿易赤字が続いているけど、リカバリーできていないんです。なぜかと言うと、部品や素材を日本から買ってるからです。サムソンや現代自動車が最終製品を作って売れば売るほど対日赤字が増えるわけです。

坂本 日本は、部品や素材の技術は凄いんですね。

大島 素材系企業は、すぐには成果を求めない。研究を奨励する。日本人の良いところが、過去から今の成果に結びついてます。素材系の企業がその良さをなくしたら、戦えなくなってしまいますね。

自分が欲しいものを開発する”心の余裕 

坂本 少し話はずれますが、同志社のエコノミスト浜矩子さんが著書で、『貴方の利益』は『私の利益』って感覚が日本人はなくなっている。それが、この閉塞感の最大の原因だというようなことを言っているんです。私は、これに尽きるのではないかな?と思うことがあります。

大島 それは?

坂本 欧米の企業は、何か新しいこと、新しいものを導入しようとするとき、とりあえず、お金を出すんですね。日本の企業は、アイデアや技術は、基本的に、タダで持って行こうとする。昔は、(後で部品とかを発注して)相手が死なない程度には出していたけど、今は、それすらもしない所が増えて来た。それでは、技術力のある中小企業は育たないですね。

大島 ウ~ン、失われた20年の間に、そこまで堕ちてしまったということなんでしょうかねぇ?

坂本 その閉塞感が、大企業経営者の心の余裕をなくしているということでしょうか?

大島 確かに、心の余裕はなくなっているんでしょうね。半導体や家電の世界では連戦連敗ですから無理無いですが。

坂本 でも、心の余裕というか、国の政策に関係なく、民間が、これからはイノベーション・イノベーティブな物をつくらないと浮上できないわけですよね。

大島 まったくその通りですね。国の施策はうまくいかなかったけれど、今の日本にイノベーションが必要だということには疑う余地は無い。ではどうするか。製品開発にはアップルはすごく参考になると思うんです。彼らは、ものすごい技術を開発したかというと、そんなことはない。確かにiPodやiPhoneのタッチパネルの技術は独自のものだけど、そんなに大したものじゃない。技術的には寄せ集めといっていいでしょう。彼らが何をしたかというとスティーブ・ジョブスが、「これが欲しい」と思ったものを作りあげてしまった。ジョブスの繰り出す無理難題をクリアーしてです。これは全てではないけどイノベーションの一つの方向性を示しているわけです。

坂本 そうですね。

大島 ただし、上記の話には注釈が要りますね。BtoB(企業対企業のビジネス)とBtoC(企業対消費者のビジネス)では製品開発の方法は違って来ます。BtoBでは、相手の企業の課題を解決してあげることが重要。これに対してBtoCでは、開発者自身が同時に消費者でもあるわけです。だから「自分の欲しいものを作ろう」というアプローチが最も効果的なわけです。それって古くはウォークマンがそうでしたよね。盛田さんが飛行機の中で音楽を聴きたいからプロトタイプを作った。それを市場に出したら世界的なヒット商品になった。日本の家電業界はデジタル家電の成功までは良かったんですが、それ以降の段階ではそうした発想が出てこなくなってしまった。

坂本 先ほどから出てくる、自前主義に繋がるんですが、商品を開発するには、アイデアや技術は必要です。ただ、具体化するのに、社内で出来ないとなると、そこでストップになってしまう。そうなっているんではないかと思いますね。

大島 そこで、あきらめたら駄目ですね。

坂本 気になるのは、根本的に「これが欲しい!」という商品が消費者の側になくなってきてませんか?

大島 確かにアメリカでもそのような議論が去年でてきていました。タイラー・コーエンというジョージ・メイソン大学の教授が書いた「THE GREAT STAGNATION」という本が話題を呼びました。イノベーションのネタが尽きちゃったという主張です。ついに、アメリカ人まで言い出したんだなぁと、感慨深いものがあります。日本でもバブルの直前に、そんなことを言っていた記憶があります。ただ、ホントにそうなの?という気もします。例えば日本は少子高齢化で人手が足りなくなるでしょう。そこには眠っているネタがゴロゴロあるんじゃないでしょうか?

坂本 ある程度作ってしまった。なのに、iPhoneが出てくるわけです。そうすると、まだ在るかもしれない、という気持ちになりますね。

大島 在ると思いますよ。掃除機のダイソン。(掃除機にはもう)イノベーションはないよねって言われていたのに徹底的にユーザーサイドに立った商品が新たに開発されたわけです。

坂本 私は、ダイソンは例外的ではないかと思うんですね。

大島 どのへんが?

坂本 ダイソンの発想は、ニーズ志向のような気がします。iPodやiPhoneは、ニーズ志向ではなかったような…

大島 そこは、同じ、じゃないですか。小回りの利く、くるくる回るのが欲しいとは誰も言っていなかった。おそらく、開発者の頭に宿って、コンセプトができた。それを形にしたから、「これが欲しかったんだ」と消費者は気付いた。イノベーションの世界は、この辺は同じではないのかな。

坂本 出来上がってみると当たり前だと思うんですけど・・・