特別企画 対談

vol.7 「サウンドサイネージと聴覚心理」

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1.平面波ってなに?

2.サウンドサイネージと聴覚心理

3.今後のTLFの展開


**** サウンドサイネージと聴覚心理 **** 

坂本 ここ数年デジタルサイネージという言葉を耳にすることがあります。視覚的な効果は当然のことながら、匂いをコンピューターで制御してサイネージにするなど、様々な商品が出てきています。ここからは貴社がご提案されているサウンドサイネージについてのお考えをお教えいただけますか?

室井 はい。聴覚は原始的な器官で、動物の初期の頃からあったと言われています。視覚はその後に目の発達があって、大脳処理系が発達して出来上がってきました。音って大脳皮質を通らず脳幹に直接入ってきますので、視覚より伝達スピードが速いですね。多くの研究者も言っていますが、聴覚は危険を察知する、周辺の環境をいち早く察知して本能的に回避する事がその機能の本質であることを考えると、視覚よりも速く情報を伝達できる器官です。また、音楽がエモーショナルだと言うことは、聴覚の機能に深く関っているのではないかとも思っています。思考回路、処理系を通さないで入ってくる、その速さと直感的な訴えが聴覚機能の一番の特色です。ただ、私達はサウンドサイネージを事業としてやっていますが、決して視覚を否定しているわけではありません。視覚だけのサイネージだと、一所懸命見て、最終的に書かれているテキストを”グッ”と集中して中身を読んで・・・理解するのに10秒ぐらい掛かってしまうということが問題点だと思っています。

坂本 なにもないと、現代人は10秒も”グッ”と広告を見てくれない。

室井 広告会社の人が言うには、ビジュアルの90%は見てもらえてないって言います。当たり前ですが、視野に入らないと見られないわけです。視野に入っていても、それを認識しないというのは普通だそうです。聴覚でいう環境騒音、暗騒音を認識しないのと同じですね。ビジュアルも注意を向けないと認知してくれない。何かあるのは分るけど、その内容まではなかなか知覚できない。聴覚機能の危険察知ではありませんが、注意を向けさせるために音を使ってビジュアルに注意を向けてもらえば、1回のチャンスでテキストまで読んで貰える。そうすれば広告として勝ちだってことになりますよね。

坂本 つまり、広告を認知して貰えるということですね?

室井 それがサウンドサイネージの役割だと思っています。

坂本 私も同感です。聴覚の仕事をしていると、視覚を否定しているかのように思われる場合があります。視覚優位の時代ですので、視覚を無視することは出来ません。ただ、現代は、何でもかんでも視覚から情報を入れさせようとしているようにも感じます。視覚でアテンション(注意)を向けさせようとしても限界があると思います。聴覚は全方向性なので、どの方向からでも気付かせることが出来るし、処理スピードが速い。突然、何か音が鳴ったら、瞬間的に、”オッ”と全員がその方向を振り向きます。処理スピードや全方向性を考えると、アテンションを引くのに、聴覚を利用しない手はありません。しかも、聴覚は不眠不休です。視覚は、目を閉じてしまえば情報はシャットアウトされてしまいますが、聴覚は死ぬまで働いていますから。

室井 そうだと思います。正しいかどうかは別として、8割の情報は視覚から得ていると言われています。

坂本 私も視覚8割は疑問に思うところがありますが・・・(笑)

坂本

室井 ただし、契約の文章や仕様書を言語 は、文字なしに(視覚なしに)的確に正確に表現することは出来ないです。

坂本 それは無理ですね(笑)

室井 正確に表現するために、人は文字を発明し、文字の定義をはっきりさせることによって、言っている事の輪郭と範囲を明確にさせました。ただ、それを読み、理解するには時間のかかる情報処理能力が必要になります。先ほども話しましたが、聴覚は処理能力としての負荷が軽いのが特徴です。

坂本 その通りです。

室井 負荷が軽いということは、視覚からの情報を処理しながら、聴覚からの情報も並行して処理できるということです。メインの処理系は視覚情報を処理している中で、パラレルで聴覚情報を与えても負荷にはならないですよね。

坂本 はい。

室井 例を挙げれば、グライダーのパイロットは外界の情報を視覚でチェックしているわけですが、上昇しているか降下しているかは、オーディオバリオを使って音で伝達しています。音のピッチが高くなると上昇している、ピッチが低くなると下降しているという風に、他の作業をしながらでも、その音を聞いていると自分の状態が計器板を見ないでも分ります。計器板を常に見ないといけないと、外界への注意が散漫になりますし、対応も遅れます。この場合、パラレルで処理できる情報を与えてあげることで、全体の処理系の情報量を増やし、処理スピードを早くすることで安全も保たれます。

*オーディオバリオ:音で上昇、下降を教えてくれる昇降計。

坂本 野球の審判の方からお話を聞いたことがありますが、一塁審判はアウト、セーフ(の判定)を瞬時にしなくてはいけないので、グラブに入るボールの音とベースを踏む音で判断するケースが多いそうです。目で見てたら判断し難いし、間に合わないんです。また、フィギュアスケートの選手からは、高速で回転する時は風を切る音で回転数を数えているって聞きました。目で数えていたら、(スピードに)まったく付いていけないそうです。そういう意味では、聴覚の能力を高めるというか、ちょっと耳を澄ませば情報が入ってきやすくなるので、全体の処理能力を高められるって思います。

室井 販促について、どこの店舗からも言われるのは、お客様にお店の敷居を一歩跨いで欲しいということです。入って来るような仕掛けが欲しいという要望は共通です。お店の中に入って下されば、あとは自分達の努力で何とかできるが、外にいると無理なんだそうです。お店の敷居を一歩跨いで頂くことは販促の最大のテーマですね。

坂本 今の消費者って、入って下さいとストレートに言っても入ってくれないですね。「安いですよ!良い物ありますよ!」と言っても、なかなかお店に入って下さらない。そのようなアナウンスを連呼していると、うるさがられるだけですよね。

室井 だからコンテンツの工夫は必要です。認識されているかは不明ですが、コンビニの入り口にはバナーがあります。バナーの役割はキャンペーン等の告知で、外に居る人を店内に誘導することです。ただ、現実的にはメディアミックスで展開しないと機能しないようです。例えばテレビコマーシャルで、スイーツの新商品のキャンペーンをやるとする。消費者は、店頭でバナーを見ると、このキャンペーンを思い出してお店に入ろう。入ってみよう。または、別の用事でコンビ二に行った時でも、「そうだテレビでやっていた、新しいスイーツついでに買っていこう」。結局、何かを思い出せないと効果はなくて、まったくゼロの物を、短時間にそこだけで理解させて入店させるのは無理みたいです。安くするというメッセージは消費者が瞬時に理解出来るのでいいですが、複雑なプログラムだと、店内に引っ張るのに時間がないですから、どこかで1回(情報を)与えておかなければいけなくなります。そうすると、テレビコマーシャルなどのマスメディアになるわけですね。つまり人は、店頭の情報は知っている情報でないと食いつかないということです。知らない情報は伝えられない。知っている情報に食いつかせる為の気付きを与えることが、音の役割ではないかなと考えています。知らない情報をそこで教え込むというのは無理ですから。

メディアミックス

坂本 政治家の街頭演説を聞いて貰うわけではないですから、ちょっと立ち止まって聞いていって下さいって訳には行きませんからね。

室井 知っている情報に気付かせてあげる。それだけですね。

坂本 今、お話を聞いていて、もしかしたらお役にたてるかなと思ったのが、弊社の特許技術で擬人化音というのがあります。簡単に言うと、空耳を人工的に作るとういう技術です。普段聞き慣れている音(川のせせらぎの音、コインのチャリン音、ポテトチップを食べる音など)でできていますので、ぼぉっと聞くとはなしに聞いていると、ある時に、その音が何かしゃべっているように聞こえてきます。そして、そこにメッセージを混ぜ込むことができる技術です。これの元の技術はキキトリックにも使われているんですよ。


*擬人化音(YOUTUBEリンク)

坂本 音量を大きくせず、同じメッセージをバンバン主張せず、ただ何を言っているかを事前に知っている相手に、うるさくなく、自然に伝えられないかな?と思って作った技術です。

室井 おぉ~!答えを目で見ると、音声データをなぞっていくので言語認識できるようです!(笑)

坂本 そうですね。事前に音声データが脳の中にないと、この音もまったく何の音かは分りません。

室井 広告や販促展開ですと、知っているものしか機能しないですからね。カクテルパーティー効果って良く言いますが、英語が分らない日本人には英語のカクテルパーティー効果は絶対に無理ですからね。

*カクテルパーティー効果:人間が、周辺の騒音レベルが高いにもかかわらず、自分が相手としている人の声、言葉きちんと聞き取れる現象。

坂本 出来ないですね。

室井 言語データベースを持っていないと絶対に無理ですよね。

坂本 そうですね。音声コミュニケーションの場合は、言ってしまえば脳の中にある辞書を引き続けているようなものですから、辞書にない言語は理解できないですね。

室井 日本語でも、専門用語で話されると分らないのは、そういうことですね。