オトコラム

第37号 骨で聞く(2)

前回に引き続きまして、骨伝導のお話です。
ツーカーの骨伝導式携帯電話を体験した方は、不思議な感じがしたと思います。
耳の穴ではなく、こめかみに充てているのに、電話の声がハッキリ聞こえるのですから。

あれは、携帯電話のスピーカーから出るはずの音を、振動子(バイブレーター)を使って振動 に変えて出していたのです。
空気の揺れだった音を、機械の振動に変換してしまったわけですね。

その振動子を骨に充てれば、振動は骨の中を伝わって、内耳にも伝わります。
そうなれば、内耳の中のリンパ液も、その振動に応じて揺れるわけです。

たらいに水を張って、そのたらいを外側から揺らせば、たらいの水も揺れるでしょう?

そして、リンパ液に揺れ(波)が起きれば、あとは、鼓膜と耳小骨から伝わった振動が内耳の リンパ液を揺らすのと同じです。
基底膜が湾曲して有毛細胞に生えた不動毛が屈曲し、音として聞こえるのです。
(このあたり忘れちゃったという方は、 オト・コラム「人が音を聞くメカニズム」のシリーズを、お読みください」)

この技術は、元々は、耳の穴が塞がった状態の外耳道閉鎖症の方や、何らかの事情で鼓膜や耳 小骨を失ってしまった方のための“補聴器”として進歩したんです。 補聴技術としては、かなり歴史が古いんですよ。

近年は、携帯電話を初め、オーディオ用のヘッドフォンとしても商品化されています。

一般に、技術というのは、元は一般の方が利用したり、楽しんだりするためのものだったのが、障害者支援などに応用されるケースが多いようです。

そう考えると、骨伝導技術は逆ですね。耳に障害を持った方のための技術が、一般の方が使うオーディオ機器に応用されているので す。

ところで、この骨伝導、ツーカーの携帯電話は無くなってしまったし、骨伝導式ヘッドフォン なんていう変わったヘッドフォンは使わないから、自分には関係ない、なんて思っていません か?

とんでもない!

私たちは、普段の生活でも、骨導を当たり前のように使っているのです。

(2011.11.14)


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